某博士課程のblog 2

私立6年制薬学部卒,博士課程進学者のblogです.記事の前にカテゴリ中のprofile(随時更新)をご覧いただきたいと思います.

常識とはただ多数派なだけである.これ以上でもこれ以下でもない.

Modern Era Retrospective-analysis for Research and Applications (MERRA)

進学する際に必ず聞かれたり,

考えるデメリット(自分はそうは思いませんが)

があります.

 

「進学すると世の中の常識を知らない人間になる」

 

と友達や親をはじめ,多くの人に言われました.

 

でも気にしなくていいと思います.

こう言い返してやってほしい.

 

あなたが常識だと思っているものは,

大多数の人間がそう呼んでいるだけであって,

こっちにも少数派ですが常識があります.

就職するとあなたはこっちの常識については

知り得ないのではないですか?

僕はあなたが知らない常識を知ります.

でも,あなたの知っている常識については

疎いかもしれません.

 

これは実際に大学の友達に言った言葉

だいぶ調子は改変してますが)なので

本人がみたら気づくと思いますが,

彼なら本意を汲み取ってくれると信頼して書きました.

 

常識は,その世界において多数派が作るものです.

住む世界が違えば常識が違います.

世界がかわれば常識はかわります.

常識に縛られている人って多いと思います.

 

以下は以前紹介した

小説「喜嶋先生の静かな世界」の引用です.

僕はこれを読んだ時しばらく鳥肌がたちました.

 

 

※ネタばれ注意

 

 

「橋場くんだけだね、理由を聞かなかったのは」

 

「え、何の理由?」

「刃物沙汰の彼女の動機」

「ああ……、そういえば」

「知りたい?」

「何かはあるんだろうね」

「考えた?」

「まあ、考えてもね、どうしようもないし」

「係長との間に何があったんだって、誰だって知りたがるよ」

「まあ、君が話したいのなら、聞いても良いよ」

「違うの……。そうじゃないの。私もね、話したくない。いえ、知りたくなかった。でもね、社会の人って、みんな、そういうことを、もの凄く知りたがっているんだよ。君みたいに、構成方程式の一般系がどうのこうのって、そんなことには興味はないわけ。それよりもね、あの人とあの人はどうして仲が悪いの、どうしてあんなに仲が良いの、あの態度はどういうつもりなの、何を考えているの、なにか隠し事をしているんじゃないの、そんなことばっかり一所懸命考えて、一所懸命話し合っているんだよ。おかしいでしょう? 絶対おかしいよね」

「おかしくはないよ。興味の対象ってのは、人それぞれ、自由だと思うし」

「そう、そうなの。それが正しい。でもね、違うの。世間の大部分の人はね、貴方みたいな数式ばかり考えている人は、頭がおかしいって思っているわけ、本当だよ。面と向かって言う人だっている。そういうのを考える人は、人間としての心が欠けているって思っているわけ。心が欠けているから、人の気持ちを察することができないって思ってるわけ。だから、無差別殺人なんかが起こったら、どうしてあんなことをしたんだって話し合って、結局は、犯人は人間としての心がなかったって結論を出して安心するの。そう言う人が大部分なんだから」

「知ってるよ」

「変だよね。そうやって、心みたいな言葉を持ち出さないといけないってのが、もう変だよね。みんが変なんだよ。数式を一所懸命考えている人って、みんなのことを認めているのに、人間の心がどうこうって言う人は、数式を考えている人を認めないじゃない。他人を認めない人の方が、人間として、なにか欠けているじゃない?」

「みんなではないよ。そういう人もいるかもしれないね」

「どうして、刃物沙汰の理由、きかなかったの?」

「どうしてかなぁ。なんとなくだけれどね。うん。つまり、理由を言葉で聞いても、結局はその意味するところは、抽象化できない。抽象化できないものは、つまり理解できないものなんだ。言葉を聞いても、理解したことにはならないんだ」

「じゃあ、理解するっていうのは、どういうこと?」

「それは、その理解によって、なにか手が打てるということだよ。その刃物沙汰を起こした理由を理解したら、それで刃物沙汰は起きなくなるかっていったら、そんなことはできないんじゃないかなって思うわけ」

「うーん、そうか」

「もちろん、手が打てる能力のある人はいるよ。心理学、脳科学、それとも社会学かな、ちゃんとそういう研究をして、精神の治療に応用できる人はいる。その人は、理由を調べて、研究して、対策を打てる。でも、なんていうのか、周りで知りたがっている野次馬みたいな人たちは、なにもできないんだ。ただ、知りたいだけなんだ」

「そうそう、そういうのは、駄目ってこと?」

「駄目ではないよ。それが普通だと思う。好奇心ってのは、誰にでもあるものだよ。ただ、好奇心を活かせるかどうかっていうことが大事だと僕は考えている。自分の好奇心を、人間とか社会の役に立つことに使いたいだけだよ。せっかく生きているんだからね」

 

――— 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界」

 

喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

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